より道の多い人生

生き恥晒して生きていく

ただいまおかえりが聞こえない部屋で

一緒に暮らしていた犬の夢をみて目が覚めた。

暴力すぎるほど眩しい朝の白い光に晒されて見開いた世界は、絶望的な気持ちを助長するかのような平和さで、それだけが唯一の救いにも思える。わたしがいてもいなくても変わらない世界はなんだか安心感すらある。

かつての友達が大阪で一人暮らししていたわたしの家に泊まりに来た際、持病を持っていたがために皮膚がボロボロになってしまった愛犬を、躊躇うことなく大事そうに愛犬を抱きかかえては嬉しそうに笑っている写真を、よりにもよって寝る前に見たのがそもそもの原因だった。

それなのに、強すぎる夢の残像に呆気にとられたあと、愛犬に久しぶりに会えた嬉しさともう二度と会えない切なさ、見届けられなかった後ろめたさがごちゃ混ぜになって迷子のようだった。叶うならあの人に今すぐ会いにいって、膝元にすがりついてわんわん泣いてしまいたい気持ちに駆られてしまったのだった。
最期を見届けることの出来なかった愛犬と入れ替わるようにわたしの人生に現れたあの人。どちらもかけがえのない存在であったのは本当で、比べることなんてこれから先もないけれど、そのどちらも今はそばにいない。どうしようもない願いは永遠に出すことのない手紙みたいだ。孤独を突き付けられたみたいで、ほんの少しだけ泣いた。

今は近くにいる彼に打ち明けてもよかったけれど、そういうときに限ってLINEの返事はまだないから、布団に入ったまま、画面の向こうの親友に連絡をする。

「ママがしょんぼりしているから会いに来てくれたんでしょ。夢でも会えてよかったやん。」と返事が帰ってきたのは布団から出てすぐのことだった。

あぁ、魔法みたいだ。たった一瞬、たった一言でわたしを取り巻く世界を変えてしまう人。つくづくこの人には敵わないと思う。なんならずっと溺れたっていい。一生敵わないままでいいから、どうかあなたはわたしの人生からどこにも行かないでね。そう祈りながら誰もわたしを待たない部屋から飛び出した足は意気揚々と人生を歩もうとするのだった。